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 百科事典を読むことが好きな子どもだった。
 サラリーマン家庭だったにも関わらず、子どもの頃、家には全部で50巻ほどにもなる百科事典がどーんと本棚を埋めていた。歴史・生物・天文・科学技術‥‥あらゆる分野の専門的な解説が詰まったこの事典を片っ端から引き、読みふけるのが大好きだった。インターネットなどない時代、私はこの事典の中でさまざまな語句を検索し、知識の海をサーフィンしていたように思う。
 
 どうして急にこんなことを思い出したのか。それは、この夏に出会った2人のおかげだ。
 
 1人は、名古屋の東山動物園の新人飼育員さん。
 小学生の頃の自由研究で、絶滅に瀕している動物が地球上にこんなにたくさんいるんだということを知り、動物園の飼育員になりたいと決意。畜産を学べる大学に行き、卒業後は全国各地の動物園の採用試験を受け、30倍という難関をくぐり抜けて昨年夏、東山動物園の飼育員になったという彼女。
 そして担当したのが、絶滅危惧種としてレッドリストにも掲載されている「スミレコンゴウインコ」。国内初の繁殖を目標に、日々格闘する様子を密着取材させていただいた。
 
 彼女の目はまっすぐだった。
 小学生の時に受けた衝撃を、ずっと心の芯に持ち続けている。
 「動物たちの環境をよくしたい。地球上のどこかに絶滅しかかっている動物がいることをみんなに知ってもらいたい」と、静かに、だけどきっぱりと語ってくれた。
 
 もう1人は、名古屋市緑区と豊明市とでブドウ農園を営んでいる農家の方。
 どうしてブドウ農家に?という質問に
 「小学生の時に食べたブドウの味が忘れられなくて」と答えてくださった。ブドウ農家を志し、農業大学を出て山梨のブドウ農家へ。そこで健康な樹に育つ美味しいブドウの栽培法を学び、地元に戻ってブドウ園を立ち上げたという。
 1年間、手間暇かけて大切に育てたブドウは、とてもみずみずしくて甘かった。彼の言葉どおり「世の中にこんなに美味しいものがあるなんて」という驚きの味だった。
 
 
 『13歳のハローワーク』という本の中で、著者の村上 龍が語っている。
 「世の中には2種類の人間・大人しかいないと思います。自分の好きな仕事、自分に向いている仕事で生活の糧を得ている人と、そうではない人のことです」
 大人になれば何らかの方法で生活の糧を得なければいけない。それならば嫌いなことをいやいやながらやるよりも、好きで好きでしょうがないことをやった方がいいと言っているのだ。そのために、自分は何が好きか、自分の適性は何か、自分の才能は何に向いているのか、そういったことを考えるための武器が好奇心だと。
 
 小学生の頃の夢をかなえたお2人と、そしてこの本の言葉。
 私の子どもの頃の夢って何だったっけ。私は好きなことを仕事にできているのかな。そう考えていた時に思い出したのだ。百科事典のことを。
 
 知らないことを知ることの楽しさ。朧げだったことが霧が晴れるように感じられる瞬間の爽快感。私にとってその原点は、あの事典だ。
 
 子どもの頃、作家になりたいと夢見ていたわけではない。「将来なりたい職業は?」と聞かれても「うーん、学校の先生、かな?」 だって世の中に構成作家って職業があるなんて、当時は知らなかったから。
 なんとなく成り行きで就いてしまったような仕事だけど、ただ一つ、知らないことを知る楽しみは叶えられているように思うのだ。
 
 私たちの仕事は、取材や撮影という名目でふだん一般の人が行けないような場所に行ける。取材でお会いする方たちからは、今まで知らなかったことをたくさん聞く事ができる。資料を読み漁り、新たな知識を得る事もある。台本に書くのはそのうちのほんの一部で、その何倍もの知識が、仕事をするたびに私の中に入ってくる。
 
 この稼業をしていると、こうしてどんどん蘊蓄(うんちく)や知識が増えていく。一見、生きていくにはあまり役に立ちそうもない知識。でもそれは小学生の頃のワクワクした気持ちを思い出させてくれる、私には懐かしくて楽しいものなのだ。それが実感できる限り、私はきっとこの仕事が自分に合っているのだろう。
 
 夏休みの宿題に、将来の進路を考えるという課題があるとかで頭を悩ませている長女。
 「んなもん、今から決められるわけないじゃんね」
 うん、確かにそうだね。
 だけどこの先、いつか「あ、これ好きかも」というものに出会うかもしれない。それはこの夏私が出会ったお2人のように、ある日突然その人を魅了するのかもしれない。「自分の好きなものは何だろう」という好奇心さえ失わずにいれば、いつかその出会いを自分のもとに引き寄せられるんじゃないかな。あるいは私のように、いつの間にか好きなことをやっていたと気づく時がくるのかも。
 
 焦らなくていい。だけど幸せな人生のヒントは、きっと自分自身の中にある。


 
  ブドウの浅果園のご主人 梶野さんのお話は9月14日(日)、
  東山動物園の飼育員 山部さんのお話は9月28日(日)の、
  いずれもCBCテレビ「ちきゅう屋駄菓子店」で放送されます。
  お世話になった皆さん、どうもありがとうございました。

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by aya_harumi | 2008-08-29 20:59 | 日記